介護者が知っておくべき「認知症の行動・心理症状(BPSD)」への対応策

認知症は、記憶障害だけでなく、様々な行動や心理的な症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)を伴うことがあります。徘徊、妄想、興奮、暴力、異食、不潔行為などは、介護者にとって大きな負担となり、対応に苦慮することも少なくありません。私も母の認知症の進行に伴い、BPSDに直面し、戸惑いや疲労を感じた経験があります。

この記事では、認知症のBPSDの主な種類と、私が実際に経験し、効果的だと感じた具体的な対応策について詳しく解説します。これらの知識と工夫が、介護者の負担を少しでも減らし、穏やかな介護生活を送る一助となれば幸いです。

1. 認知症のBPSDとは?主な症状の理解

BPSDは、認知症の中核症状(記憶障害など)に起因して現れる、生活に支障をきたす行動や心理的な症状の総称です。BPSDは、脳の病気による症状であり、本人の「わざと」ではありません。そのことを理解することが、対応の第一歩となります。

主なBPSDの例:

  • 徘徊: 目的なく歩き回る。
  • 妄想: 実際にはないことを信じ込む(例:「物を盗られた」など)。
  • 幻覚: 実際にはないものが見える、聞こえる(幻視、幻聴)。
  • 暴言・暴力: 介護者や周囲に言葉や身体的な攻撃をする。
  • 興奮・攻撃性: 突然怒り出したり、落ち着きがなくなったりする。
  • 不潔行為: 排泄物をいじる、所構わず排泄するなど。
  • 異食: 食べられないものを口にする。
  • 無気力・無関心: 何事にも興味を示さず、活動性が低下する。
  • 睡眠障害: 昼夜逆転、夜間徘徊など。

2. BPSDへの基本的な対応原則:なぜその行動が起きるのか?

BPSDへの対応で最も重要なのは、「なぜその行動が起きているのか?」という原因を探る視点を持つことです。本人の訴えや行動には、何らかの理由やメッセージが隠されています。

  • 心身の不不快: 痛み、便秘、空腹、喉の渇き、排泄したい、眠い、暑い・寒いなど。
  • 環境要因: 周囲の騒音、見慣れない場所、暗闇、照明が眩しい、部屋が散らかっているなど。
  • 心理的要因: 不安、寂しさ、困惑、役割の喪失、過度な刺激、退屈など。
  • 人間関係: 介護者との相性、威圧的な態度、過剰な声かけなど。

私が意識したこと: 母が興奮し始めた時、まずは「何か体に不調はないか?」「喉が渇いていないか?」と確認しました。次に「部屋は快適か?」「何か嫌な音はしないか?」と環境をチェック。そして「寂しいのか?」「何か不安に感じているのか?」と、母の表情や言動から心理状態を推し量るようにしました。

3. BPSD別:具体的な対応策と私の工夫

BPSDの具体的な症状に合わせた対応策をいくつかご紹介します。

  • 徘徊への対応:
    • 対策: 戸締りを強化する(二重ロック、補助錠)、GPS機器を持たせる、近隣住民に協力を依頼する。本人が歩きたがっている場合は、安全な範囲で一緒に散歩するなど、目的のある外出を促す。
    • 私の工夫: 母が外出したがる時は、無理に引き止めず「ちょっと散歩に行こうか」と声をかけ、一緒に近所を歩きました。また、玄関には鍵をいくつか設置し、外に出にくい工夫をしました。
  • 妄想・幻覚への対応:
    • 対策: 症状を否定せず、まずは本人の気持ちを受け止める(傾聴)。「大変だったね」「そう見えたんだね」と共感を示す。現実との区別が難しいので、無理に訂正しようとしない。
    • 私の工夫: 「泥棒に入られた」と訴える母に対し、「お母さん、怖い思いをしたんだね。今は私がそばにいるから大丈夫だよ」と声をかけ、一緒に安心できるような行動(部屋の鍵を確認するなど)を取りました。話題をそらすことも有効でした。
  • 暴言・暴力、興奮への対応:
    • 対策: まずは介護者自身の安全を確保する。落ち着いて対応し、本人の感情を否定しない。「何か嫌なことがあったの?」と問いかけ、原因を探る。刺激になるものを遠ざける。
    • 私の工夫: 母が興奮した際は、大きな声を出さず、ゆっくりと話しかけました。時には、一旦その場を離れて距離を置くこともありました。好きな音楽をかけたり、温かい飲み物を出したりして、気分を落ち着かせる試みも有効でした。
  • 不潔行為への対応:
    • 対策: 定期的な排泄の声かけ、トイレの場所を分かりやすくする、失禁パッドやオムツを適切に利用する。汚れても洗濯しやすい衣類にする。
    • 私の工夫: トイレのマークを大きく表示したり、居間からトイレまでの動線を遮るものをなくしたりしました。また、排泄のタイミングを記録し、その時間に合わせて声かけをするようにしました。
  • 異食への対応:
    • 対策: 食べられないものを手の届く場所に置かない。環境を整理整頓し、見た目で混乱させない。
    • 私の工夫: 母の周りに食べられないものは一切置かないように徹底し、テーブルの上も常に整理整頓を心がけました。

4. 介護者自身の心のケアも忘れずに

BPSDへの対応は、介護者にとって大きなストレス源です。

  • 一人で抱え込まない: ケアマネージャー、地域包括支援センター、認知症カフェなど、専門家や同じ境遇の仲間と積極的に相談しましょう。
  • レスパイトケアの活用: ショートステイなどを利用し、介護から離れて休息を取る時間も非常に重要です。
  • 介護者の会への参加: BPSDへの対応経験を持つ他の介護者から、実践的なアドバイスや共感を得られる場です。

まとめ

認知症のBPSDは、介護者に大きな負担をかけますが、その行動の背景にある原因を理解し、適切な対応をとることで、症状を緩和し、介護負担を軽減することができます。

決して一人で抱え込まず、外部の専門家や仲間を頼り、そして何よりも介護者自身の心身の健康を守ることを最優先にしてください。穏やかな対応と工夫で、要介護者も介護者も安心して過ごせる介護生活を目指しましょう。

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