【母の料理の味が変わった日】

母が認知症かもしれない、そんな考えが頭をよぎったのは、今思えばこの出来事がきっかけだったのかもしれません。

母は生前、料理がとても得意で、家族の誕生日や季節の行事には必ず腕をふるってくれていました。特に煮物の味は絶品で、「おふくろの味」と言えば真っ先に思い出すのが母の筑前煮でした。

でも、ある日その味が違っていたんです。

見た目はいつも通りなのに、一口食べて「あれ?」と違和感。しょっぱいような、でもどこか甘さも変で、調和が取れていない味。最初は「ちょっと今日は塩を入れすぎたのかな」と思っていたのですが、それが何度か続いたんです。

「あれ?お砂糖と塩、間違えちゃったかも」

母がそう言って笑った日、私はなんとも言えない胸騒ぎを覚えました。

料理の味を間違えるなんて、母らしくない。何かおかしい。そう思いながらも、「年のせいかな」「疲れてるのかな」と自分に言い聞かせていました。でも、心のどこかで小さな違和感が、だんだんと大きな不安に変わっていったのを覚えています。

母が認知症だと正式に診断されたのは、それからしばらく経ってからのこと。あの時の煮物の味は、私にとって忘れられない「気づき」の一皿になりました。

あの時、もっと早く気づいてあげられたら…そんな後悔もあります。

もう母はいませんが、あの日の筑前煮の味も、その笑顔も、私の中で生き続けています。

料理は得意じゃないけれど、母の味を覚えている限り、心の中であのぬくもりを受け継いでいきたいと思います。

【読んでくださる方へ】 もし、大切な人の様子が「いつもと違う」と感じたら、どうかその違和感を大切にしてください。それは決して大げさなことではなく、愛する人を守るための第一歩かもしれません。

【自分へのメモ】 小さな変化を見逃さないこと。思い出や記憶を心に留めながら、日々を丁寧に生きること。そして、大切な人への感謝を言葉にすることを忘れないように。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です